誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
「こんな夜中に、すいません。何だか胸騒ぎがして…
いや、ここからは仕事ではなく、プライベートで。
あなたの顔がどうしても見たくなって…」
「敬……」
その名前を口にした途端、彩の目から大粒の涙がポロリとこぼれ落ちた。
「えっ、彩…さん?」
「敬~~~!」
数秒後、彩は敬の腕の中に飛び込んでいた。
「えっ?どうしたんですか?何があったんですか?」
「…だって、中島さんの娘さんの怪我って、嘘だったんでしょう?ヒック…だから、今日はもう…中島さんと一緒で…
それに、中島さんが…敬を絶対落とすって、理香が、言ってるって…ヒック、だから、ここには、もう…帰ってこない、かって…ヒック…」
敬はクスリと笑みを浮かべると、泣きじゃくる子供を慈しむ母親のような手つきで、彩の背中をポンポンと叩いた。
「そうだったんですか。嘘だって、気づいてたんですか。
大丈夫ですよ。まぁ、俺も男ですから、かなりヤバい状況ではありましたけど…
でも、振り切って帰ってきてよかった。あなたが、俺のことを、そんな風に想ってくれてたなんて…」