誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
その日、彩は気分が優れないという理由で会社を早退した。
皆さん、お元気、で……皆さん、お元気、で……皆さん、お元気、で……
頭の中で、敬の別れの言葉がエンドレスに回り続ける。
敬…
どうして?
どうして、そんな大事なこと、あたしに先に知らせてくれなかったの?
敬にとってあたしって、そんなどうでもいい存在だったの?
ううん……
そんなこと、ほんとは最初からわかってたはず。
三つも年上で、こんな田舎でくすぶってる使い捨てのパート社員なんて、敬がマジで相手にするわけないって…
わかっていながら、飛び込んでったのはあたしの方。
あたしは敬に何を期待してたの?
なし崩しに一晩抱かれただけで、もう恋人になったつもりだったの?
一人で舞い上がってた自分が、死んでしまいたいくらい恥ずかしい。
恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて…涙が止まらない。
彩はそれから三日三晩、ベッドから起き上がることも、携帯を手に取ることもなく、枕を涙で濡らし続けた。
生々しく身体に刻まれた、敬の記憶を抱きながら…