笑わない女と俺
夜、夕飯を食べた後、緊張気味に家の電話の前に立つ。

ちなみにこの緊張は女の子の家に電話を掛けるという嬉し恥ずかしさに対しての緊張ではない。

エミに電話するから緊張しているのだ。

なんせ、今までうちのクラスでエミに電話したのは担任のカトケンだけなのだ。

いったい笑わない女、山月笑美はどんな電話応対をするのか。

興味はあるが、その興味と実際に自分が電話を掛けるという行為は意欲と結び付く事を拒んでいる。

まあ、カトケンが電話してるだろうし、俺が掛けなくとも。

そう思ってみたものの、学級委員の責任という言葉が肩に思い切りのしかかる。

俺ってつくづく不器用だな…。

「はぁ…」

一つ溜息を漏らすと、エミの自宅の番号をプッシュする。

しばらくコールが鳴ると繋がる音がする。

「もしもし、山月ですが…」

出たのはどうやら年配の男性のようだ。

「あ、もしもし、夜分遅くすいません。私、笑美さんと同じクラスの尾倉といいます。笑美さん、いらっしゃいますか?」

「…笑美ですね、少しお待ち下さい…」
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