さくらいろ
「なんで…」
「電気ついてなかったから。どーせ親いなくて飯食えなくて困ってんだろ」
それで、鍋か。
今日の夕飯は海斗くんと二人で鍋か。
「……あたりです、情けないけど…」
「ははっ! 母さんが杏里に夕飯作ってやるように、おまえの母さんから頼まれてたらしい」
…うちはお母さんの信頼さえもなかったのね。
本格的に悲しくなってくる。
「まあ1人より2人のほうが飯はうまいって!ほら食べよう」
…なんか、一気に肩の力が抜けた。
海斗くんを見て、なんだか少し安心したような気分。
ほんとにこの人優しい。
本当のお兄ちゃんだったらいいのに。
「姉さんは?」
「今日友達とご飯いくんだってー」
「大学生楽しそうだな」
海斗くんと他愛もない話をしながら、いっしょにご飯をたべた。
鍋の中身は鍋ではなく、またあの優しい味のする野菜たっぷり雑炊で、本当においしかった。
泣いてだるかったうちにはちょうどよかった。