上野さんと渋谷くん
「お前、これはないよ!絵心無さ過ぎる!」
「もう!市ヶ谷さん笑いすぎです!」
腹を抱えて笑う市ヶ谷さんを、真っ赤になって睨む上野さん。
俺も必死で笑いを堪えながら、内心、これはねえよ、と思ってた。
有名なネコ型ロボットの落書き、なんだけど、鼻が有り得ないほどデカかったり、何故かネズミみたいなシッポが付いてたりで、まるで原型を留めてない。
しかも余程腹が減ってたのか、吹き出しで「おなかすいたにゃあああ!」とか書いてある。何もかもがおかしすぎる。
上野さんは笑いが止まらない市ヶ谷さんを睨みながら、そのメモ帳を破いて証拠隠滅を図って、言い捨てた。
「仕事の邪魔なんで、さっさとお昼行って下さい!」
俺が顔を上げるのと、市ヶ谷さんが笑いを止めたのは一緒だった。
「…まーた、目黒がなんかやらかしたのか?」
呆れたように市ヶ谷さんが言うと、上野さんがため息で返事をする。
「…こないだ、修正して、やっとメールで送った契約書、間違えて上書きしちゃったそうですよ」
「え、あれ今日の午後イチでクライアントに持ってくって言ってましたよ?」
俺が思わず口を開くと、上野さんは肩を落とし、市ヶ谷さんも天を仰いだ。
…なんつうか、本当に申し訳ございません。