上野さんと渋谷くん

それから、市ヶ谷さんに会いに行くと、上野さんにも話し掛けるようになった。
…電話中に手元を見ようとすると怒られたけど。

上野さんは公私混同はしないひとらしく、電話口では相変わらずクールで敬語を崩さなかったけど、顔を合わせるとタメ口で話してくれる。

それが何だか特別扱いみたいで、こそばゆいなあと感じながらも、心地良いと思ってた時に、偶然、外で上野さんを見た。

天気の良い昼休みだった。

会社近くにある公園。噴水を囲むように緑とベンチがあり、そこで親子連れや同じようなサラリーマンが、のんびり日向ぼっこをしてた。

俺は、午前中の打ち合わせが長引いて、会社に戻る途中で。
さっさと公園を横切ろうとして、足を止めた。

上野さんはベンチに座っていた。お弁当の包みを脇に置いて、ペットボトルのお茶を抱えて、気持ちよさそうに空を見上げてた。…ちょっと口が開いてて。

なんか可愛いなあ。

良いなあ。

そう思った。

クールで、絵心なくて、面倒見が良くて、…子供っぽい。

他には、どんな顔があるのかなあ。俺だけに、全部見せてくれないかなあ。


そう思った時には、恋に落ちていた。

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