上野さんと渋谷くん
上野さんは、とにかくずっと笑ってた。

「上野さんは、笑い上戸なんっすね」

田町さんと市ヶ谷さんがトイレと電話で席を外していて、浮かれてたのかも知れない。

初めて、上野さんの酔ったところを見た。

「あー、そうかもねえー」

目の前には、楽しそうに笑う彼女。

「でも、渋谷くんはお酒強いよねー」
「そうっすかね?」
「そうだよー」
「まあ、接待では助かりますけどねえ」
「ああ、営業さんはそういうのがあるから大変だよねえ」

不意に上野さんの右手が伸びた。

俺の髪に。

「えらいえらーい」

目の前で。

彼女が子供のように笑う。

気が付いたら、口が勝手に開いていた。

「……す」
「え?なあに?」


「俺、上野さんのこと、好きなんです」



目の前の彼女の瞳が、大きく瞬いた。

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