上野さんと渋谷くん
市ヶ谷さんは、あたしの恨みがましい視線に気付くと、笑いながら左手を顔の前に上げた。

「悪い悪い、今の営業の目黒だろ?」
「そうですけど!笑い事じゃないですよ」

あたしが落書きで真っ黒になったメモ帳をちぎり、ゴミ箱にすてながら言うと、市ヶ谷さんも眉間にシワを寄せる。

「目黒なあ…アイツも件数抱えてテンパってんのは解るんだけどな」
「でも、そのしわ寄せが全部社内にくるんじゃ困ります」
「まあアイツ、元は開発だし」

その辺喋らすと強いんだけどな。そう言いながら市ヶ谷さんはため息をついた。

市ヶ谷さんは、前は営業部にいたらしく、目黒さんはその頃の部下なので、話題に上ると気になるようだ。

なんとなく息をつくと、また電話が複数鳴り響いて、お互いに顔を見合わせる。
それから、市ヶ谷さんはさっと外線を取って話し始めた。さすがに切り替えが早い。

もう、午前中で何本電話取れば良いのよ…と、思うけど、仕方ない。
…でも、ややこしい案件じゃありませんように!と祈りながら、あたしも内線を勢いよく取った。

「お待たせしました。契約部上野です」

「あ!上野さんですか?」

次の瞬間、脱力したけど。

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