上野さんと渋谷くん
「僕もこれから昼なんですけど、ご一緒しても良いですか?」
畳みかけるように聞かれて、慌てて口を開く。
「え、あの…」
「…ダメですか?」
「いや、ダメとかそういうワケじゃ…」
「ありがとうございます!じゃあ、俺、飯買ってから行きます!」
先に食ってて下さいね!と嬉しそうに言うと、挨拶と共に電話を切られた。…なんと言う早業。
あたしが呆然と受話器を置くと、いつの間にか電話を終えた市ヶ谷さんが、耐えきれないと言うように吹き出した。
向かいの島の田町さんが「なによ?」と驚いたようにこっちを向いたので、慌てて愛想笑いで誤魔化すと、市ヶ谷さんも悪いと思ったのか、モニターの影に隠れるようにして、笑っている。
「おもしれえー。アイツ、声でかいんだよ。良かったな、上野。今日駒込さん出張で」
駒込さんはうちの部門長で、主婦ばりのゴシップ好きだ。…いや、良いひとなんだけどね…。
未だに面白そうに笑っている市ヶ谷さんを横目で見て、あたしはがっくりと肩を落とした。
それもこれも、全部市ヶ谷さんのせいじゃないですか…!
もちろん、そんな、火に油を注ぐような事、言えやしないけど。