上野さんと渋谷くん
ポカポカと優しい陽気に目を細めながら、膝の上のお弁当を広げる。
会社から少し離れたところにある公園が、晴れた日のあたしのランチスポットだ。
『へえ、良いですね。今度、俺もご一緒しても良いですか?』
いつかの声を思い出す。
あの時はまさか本気と思わなくて、適当に頷いたんだった。
思い返して落ち着かなくなり、広場の噴水を眺めていると、やっと名前を呼ばれた。
「上野さん!良かった、見つかった!」
手にパン屋さんの袋をふたつも抱えて、渋谷くんがあたしの隣に座る。
「すごいね、そんなにパン食べるの?」
「え、男だと普通じゃないですか?」
言いながら、紙袋からどんどんパンを広げていく。その様子を見て、あたしもやっとお弁当を食べ始めた。
「あ、もしかして待っててくれました?すいません!」
目敏く気付いた渋谷くんに首を振る。
「いや、ぼーっとしてただけだから」
「そうですか?…俺は、営業だし時間の融通きくけど、上野さんは難しいだろうから、今度からは先に食っちゃって下さいね?」
その台詞にあたしが思わず渋谷くんを見上げると、渋谷くんもあたしを見て困ったように笑う。