上野さんと渋谷くん
「『今度』は無しですか?」
低い声で聞かれて、卵焼きが喉に詰まるかと思った。
慌ててお茶で流し込んで、驚いた渋谷くんを片手で制して、息をつく。
しばらく、木々を揺らす風の音と噴水の水の音が響き。
「冗談かと思ってた」
ぽつり、と言うと、隣から低い声が答える。
「そう思ってると思いました、上野さんなら」
言いながら、パンをかじる気配。あたしも唐揚げを口にする。
そうやって、しばらく食事に専念する。
食べ終わって時計を見ると、そろそろ会社に戻る時間だった。
ベンチから立ち上がると、渋谷くんがあたしを真っ直ぐ見上げて、言った。
「また、晴れた日、ご一緒しても良いですか?」
一瞬、躊躇して。
頷いた。
それを見て、渋谷くんは安堵したように笑って、続けた。
「あと、また飲みに行きましょうね」
俺、上野さんのこと、好きなんです。
あの夜と同じように。
渋谷くんが笑った。