上野さんと渋谷くん
彼女を知ったのは、市ヶ谷さんがきっかけだった。

市ヶ谷さんは元々営業のひとだったんだけど、契約部と営業部の連携があまりにもひどいので、両方の事情に精通している市ヶ谷さんが、橋渡し役として半年前に異動になったんだ。

『俺は生贄なんだよ』と、市ヶ谷さんは笑ってたけど。

これから大規模な社内の組織変更が予定されてて、市ヶ谷さんがそれに携わるんじゃないかって、専らの噂だ。

でも、俺は勝手ながら、ものすごくやる気をなくした。

入社以来、ずっと市ヶ谷さんの下でやってきてたから、尊敬してたし目標だった。もちろん、大崎さんも尊敬してるけど、市ヶ谷さんは別格だったんだ。

だから異動になっても、何だかんだと理由をつけて、契約部に顔を出すようになった。市ヶ谷さんがいるから。

以前は、契約部にはなるべく近寄らず、電話とメールで用件を済まそうとしてたのに。我ながら現金だと思うけどさ。

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