上野さんと渋谷くん

「上野ー、1番に営業の目黒!」

その日も、久しぶりに市ヶ谷さんと昼飯でも食おうって約束してて、足取りも軽く契約部まで下りていった。

そこで市ヶ谷さんが電話を取り次いでたのが彼女だったんだ。

彼女―――上野さんは、滅多に感情を出さないことで、既に営業部では有名だったんだけど、ハッキリ認識するのはその日が初めてで。

窓際のキャビネットで作業中だった上野さんは、時計を見て、それからため息をついて自席に戻り、受話器を上げた。

「…お電話変わりました。上野です」

そりゃそうだ。今は立派な昼休み。目黒さんって本当にテンパると周り見えなくなっちゃうひとなんだ。

…マジですいません。

同じ営業部と言うこともあり、俺が内心謝っていると、市ヶ谷さんが肩を震わせていて。

通路で首を傾げていると、市ヶ谷さんの指が俺を呼ぶ。

良いのかなーと思いつつ契約部のフロアに入り、促されるままに上野さんの手元を見た。


そして、吹き出した。



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