プリズム
絵理香は困惑した。

子供は大好きで、中学の時は保育士になりたいと思っていた時期もあったけれど、それとこれは別問題だ。

突然親になるなんて…正直いえば、「未知との遭遇」の世界だ。

半分は翔の血が流れているとはいえ、半分は他人だ。

でも、嫌だといったら翔は失望するだろう。
結婚してすぐに初期流産をしてしまった絵理香を、翔はとてもいたわってくれた。
その優しさに絵理香は本当に救われた。

「残念だけど、俺は絵理香さえ無事だったらいい。前の結婚は失敗したから、絵理香との結婚は大事にしたいんだ。」
翔は言っていた。

「子供は、男の子だったよね?」

今まで、あえて翔の子供のことは話題にしなかった。

父親である翔は、二か月にいっぺんくらい子供に会っていたが、絵理香はノータッチだった。だから、子供についてはよく知らなかった。

「何才?」
「五才だよ。」

五才がどの程度なのか身内にも友人にも小さい子供がいないのでわからないが、母の記憶はあるのではないか。

引き取ったところで、実母を恋しがり、自分には懐かないのではないか…絵理香は沈黙し、目を伏せる。

「翔、私、自信ない。」

正直に告げた。

「そうか…。」

翔はかなり落胆したようだ。絵理香は胸が痛んだ。
でも、翔は優しい。

「絵理香が嫌なら仕方ないね。絵理香には仕事もあるし。ごめん、無理言って。」

笑顔でそういうと、リモコンをかざしてテレビのスイッチを入れた。
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