プリズム
暖冬だというが、凍えるように寒い日が続いた。
一日中の立ち仕事はとっくに慣れたが、寒がりの絵理香には辛い。

店を出た途端、体が冷える。
暖房の効き過ぎた店内との落差が激しいから、そう感じるのかもしれなかった。


翔と絵理香のマンションは、私鉄のターミナル駅にある。

翔の会社が借り上げている3LDKのマンションは、夫婦二人暮らしには充分過ぎる広さだ。

その日絵理香は遅番だったので、帰宅した時にはもう翔は家にいて、リビングでビールを飲みながら寛いでいた。


コートを脱ぐ絵理香に翔が言う。

「おかえり。ご飯、お惣菜買っちゃった。」

日曜なので会社が休みの翔は、別れて暮らす子供に会う日だった。
子供とは調停の結果、二ヶ月に一辺、会うことになっていた。

「手抜きしてゴメンね。」

翔は立ち上がって袋から惣菜を取り出し、テーブルの皿に並べ始めた。

翔が休みで絵理香が仕事の時は、翔が夕飯を作る決まりだった。


「別にいいよ。私、海老のマヨネーズソースも春巻きも、大〜好き」

絵理香は冷蔵庫から麦茶を取り出しながら、おどけて言った。

「レタスのサラダだけは作ったから許して。」

翔が笑いながら言う。


「それより、礼央くん、元気だった?」
寝室で着替えながら、リビングにいる翔に尋ねる。

「その事で話があるんだ。座って聞いてくれる?」

翔が寝室にいる絵理香に言った。


その声音には、何かただならぬものが感じられた。

絵理香は少し緊張しながら、リビングに戻り、ダイニングチェアに座って翔と向き合う。

翔は真剣な眼差しで絵理香の目を見ながら、話し始めた。
< 6 / 23 >

この作品をシェア

pagetop