出会う前のキミに逢いたくて
「オレは初めて見る顔だったんだ。
でも、その人、前にもこの店に来たことがあるって強気に言っててさ。
で、いきなり“今日マヤちゃんは?”って聞いてきたんだよねえ」

マスターがスポンジでカップをゴシゴシこする。

飛んだ泡が鼻の頭に付着した。

「誰だろう・・・」

「マヤちゃん、人気者だからさ」

わたしが首をかしげると、マスターは手を動かしながら続けた。

「“お客さんも彼女のファンですか?”って聞いたら“そうです”って認めてたよ」

本当は人気者でも何でもない。

そのとき、ふとおばさんの言葉が脳裏をかすめた。

出勤の時、わたしの後ろにストーカー風の男が立っていたという話。

胸騒ぎがする。

「どんな人ですか?」

マスターが蛇口をひねり、洗い物の手を止めた。
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