出会う前のキミに逢いたくて

約束

「おはようございます」

バイトへ向かおうとドアをあけたときのことだ。

隣室の女性もちょうど外出するところだった。

この前、マサキが部屋を訪ねて来たとき、一瞬言葉を交わしたひっつめ髪の女性。

そのときは確か、長年愛用したくたびれたトレーナーにつっかけという超ラフないでたちだったけど、今日は紺のスーツでビシッときめている。

洋服と髪型と化粧で女はいくらでも変身できるらしい。

彼女はこれから出勤する様子だった。

「おはようございます」

私もカギを回しながら目を合わせ微笑んだ。

並んでアパートの入り口まで歩く。

歩調はまったく同じ。

さらに路地に出ると二人とも左折。

彼女も駅のほうへ向かうらしかった。

「越してきてどれくらいになるの?」

ヒールの音を規則正しくたてながら、彼女が口を開いた。

「おととしです。
おととしの秋だからちょうど2年ですね。
2年って早いなぁ」

というと「私の年齢になったらもっと早く感じられるわよ」といって彼女は苦笑した。

受け答えに苦労するコメント。



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