出会う前のキミに逢いたくて
先攻は原田くん擁するA大学だ。


バッターボックスにA大学のリードオフマンが入った。


中野くんは多くの修羅場を乗り越えてるだけあって、マウンド上でもひょうひょうとしている。


表情が普段と何ら変わらないもの。


交差点で信号待ちしてるときのような顔。


彼はインタビューで「野球で緊張したことはこれまで一度もない」と言ったらしいけど、虚勢でもハッタリでもなさそうだ。


ピッチャーにとって最もデリケートなのが立ち上がりといわれる。


注目の一球目。


中野くんの投じた球はキャッチャーの構えたミットどおり、アウトコースの一番低いところにコントロールされた。


歓声が沸き起こる。


次の球もまったく同じところに決まる。


球のキレも申し分ない。


素人のオレも見ててわかる。


記者席の一角から、球威のある素晴らしいストレートに溜息がもれたほど。


1回表、中野くんは3人のバッターを3人とも三振に切ってとり、最高の滑り出しを飾った。


よし、いいぞ!


フフフ、原田くんに相当な重圧がかかるはずだ。


いい気味だ。


ざまあ。

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