出会う前のキミに逢いたくて
今度はW大学の一番打者がバッターボックスに入った。


俊足で知られる左バッターだ。


原田くんが大きく振りかぶり、初球を投じた。


キャッチャーの構えた位置とは逆のコースに投げ込まれた。


いわゆる「逆球」というやつ。


原田くんにとっては運良く、オレにとっては運悪く、審判がストライクをコールした。


緊張のせいか、制球を乱してる。


まあ、もともとコントロールの優れた投手ってわけじゃなさそうだけど。


二球目も同じような逆球だった。


いいぞいいぞ。


原田くんさぁ、こんなんで大丈夫なのか?


オレは助かるけど。


心の中でつぶやく。


ところが周りの記者の反応は違った。


「気合入ってるね」


「いい球きてるじゃん」


「球に勢いがあるね」


なぜか賞賛の声がポンポンと飛び出す。


コントロールはアバウトだけど、一球一級に力があり、魂が宿っている・・・


玄人にはそう見えるらしかった。


まったくもってオレにはよくわからん世界だ。


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