出会う前のキミに逢いたくて

一塁側スタンド

イニングが進むにつれて、スコアボードに並ぶゼロの数も増えていった。


6回を終わって0対0。


マサキと中野くんの投げあいは永遠に続きそうだった。


「もう十分よ。ここまで頑張ってくれたんだから。もう十分」


満足そうにそう語ったのはマサキのお母さんだ。


わたしの隣でメガホンを握りしめ、やさしいまなざしでマウンドを見守っている。


彼女とは今日が初対面だった。


すらっとした長身と涼しげな目元、整った鼻筋がとても魅力的。


今日の新発見はマサキがお母さん似であることだ。


「マサキさんの頑張り、すごいと思います。
わたしももう十分、胸がいっぱいです」


そう言うと、お母さんもにっこりと微笑んだ。


本当に穏やかな笑みだった。


けれど・・・


わたしの本心はまったく違った。


絶対にマサキに勝ってもらいたい。


一度でいい。


中野くんを超えてほしい。


いや。超えさせてあげたい・・・。


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