出会う前のキミに逢いたくて
どこか儚くて暗い声質。


これ以上、つっこんでいいものかどうか迷った。


インタビューなのだから尋ねないわけにはいかない。


けど、ぶしつけな質問はためらわれた。


慎重に慎重に言葉を選ぶ。


「一段とファンが増えたと思います。


人ってみんな贅沢じゃないですか。


この前以上のピッチングが今後、望まれると思いますけど」


原田くんの言葉をじっと待った。


残りのミネラルウォーターを飲み干したのち、彼が静かに言った。


「オレ、野球をやめるんです」


そうか。


だから淋しそうなのか…。


でもなぜ?


一応、演技で「えっ!」と大げさに驚いて見せる。


「どうしてですか? 当然、プロを目指すとみんな思ってますよ。少なくともうちの副編集長は」

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