出会う前のキミに逢いたくて
原田くんが目線を動かした。


視線の先を追いかける。


彼はマウンドを見つめていた。


彼自身が最も輝ける場所。


彼が最も自分らしくいられるであろう場所。


「もうオレはあそこに立てないんです」


わからない。


なぜ、マウンドを去る?


彼が言った「完全燃焼」にヒントはあるのか?


「つまりその・・・この前の中野くんとの投げあいで・・・燃え尽きたということですか?」


こわごわ尋ねた。


原田くんはマウンドに視線を注ぎ続ける。


「順番が逆です。
もう野球ができない。
だから最後の試合を完全燃焼しようと思った
・・・これが正解です」


淡々とした口調ながら、何か思いつめた表情。


下手に相槌を打ったり、言葉を挟まないほうがいい。


というより、挟めない。


挟めるわけがない。


たとえ聞き手がベテランのインタビュアーだとしても。


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