出会う前のキミに逢いたくて
ベンチから起きると、立ち上がって、体を思い切り伸ばした。


サラリーマンは相変わらず、オレに視線を向けることもなく、ムシャムシャとパンを頬張ってる。


頭上で小鳥のさえずり。


花の香りを鼻孔いっぱいに吸い込む。


公園中央にある楕円形の池を縁取るようにして歩いた。


辺りに人の姿はない。


犬を連れた白髪の老人と一度すれ違ったきり。


湿り気を含んだ春の土をかみしめながら、ゆっくりとした足取りで出口に向かった。


満開を迎えた桜の木々。


息を飲むほどにキレイだった。


歩道の両脇にどっしりと根を下ろしている。


枝の一つ一つを淡いピンクの花びらで装飾。


1年に1度だけのドレスアップを存分に楽しんでるみたいだ。


その一方で、春は別れの季節と相場は決まっている。


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