出会う前のキミに逢いたくて
そのとき、携帯が鳴った。


たぶん、彼女だ。


「もしもし」


「アタシ。今どこ?」


「駅からアパートに向かってるところ」


「おせーよ」


やっぱりおまえか。


高校時代の同級生。


彼女もこの近くに寄生していて、最近コンビニでばったり遭遇。


誰かさんと付き合ってた時のようなドキドキ感はない。


けど、そばにいてくれるだけでホッとしたりもする。


やがて、空気のような存在であることに気付いた。


どうやら彼女も同じような想いでいるらしい。


とにかく男勝りを絵に描いたような女なのだ。


「そういえば昔、いじめっ子の男子に後ろからスリーパーホールドを決めて落としたことがあったな」


「そういう、どうでもいいことは覚えてるんだね」


「やがてそいつは泡を吹いて気絶。それ以来、ぴたっとクラスからいじめは消えた。と同時に、おまえも教室からしばらく消えた。停学をくらってしまったから」


「よしなよ。そんな昔ばなしに浸るの。おじさんになった証拠だよ。若者なら未来を見据えないと」


「そういうおまえがどんな未来を思い描いてるっていうんだよ」


「最高に楽しい未来に決まってるじゃん」


「だからどんな?」


「おいしい未来」


「どういうこと?」


「田舎から野菜が届いたからおすそわけしてやるよ。それと、うまい日本酒見つけたんだ」


アパートの前。


彼女は酒瓶を携え、煙草をふかしながら待ち伏せしていた。


事あるごとに「アタシの前世はオヤジだから」と弁解する彼女。


現世でも十分そうだろ。
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