出会う前のキミに逢いたくて
『女優の部屋」

麗子は毛皮のポケットからキーを取り出し、鍵穴に差し込んだ。
そんな他愛ない仕草まで優雅に映るのは彼女が女優だからだろう。

やがてオートロックが解かれ、視界が開けた。タップを踏むような軽やかさで麗子が進みだす。
ほっそりした背中を追いかけ、オレも自動ドアをくぐった。

麗子は颯爽とエレベーターに乗り込むと、最上階を選択した。
慌ててオレも飛び乗る。
麗子の後ろにまわると、遠慮なく髪の匂いを嗅いだ。
なんと芳しい。
別世界にいるみたい。
鼻の筋肉をしつこく収縮させ、周辺の空気を体内に取り込む。

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