出会う前のキミに逢いたくて
彼女が日記をつけているなんて、今日の今日まで知らなかった。

おいおい今どき日記かよ!?

古き良きものを愛する傾向にあることは感じてたけど、思っていた以上に古風なんだなぁ。

無論、最初は、ひらいて見る気なんてさらさらなかった。

恋人のメールを勝手に盗み見る奴がオレの周りにもいるけど、自分の美学に大いに反していた。
他人のプライバシーに土足で踏み入るみたいだし、第一、見てる最中に彼女が帰ってきたら…二人の関係はあっさりジ・エンドだろう。

そんなとき、テーブルの上でスマホが鳴った。
マヤからの電話であることを知らせる着メロである。

ショパンのボリュームを少し絞り、端末を髪に覆われた耳にあてた。

「もしもし、わたし」
秘めた心の内を綴った日記帳。
そのすぐそばにオレが立ってることなど夢にも思ってない様子で、マヤが元気ではじける声を響かせる。
「一軒目のスーパー、あんまりいい野菜を置いてなくてさぁ。だから別のスーパーをまわってみようと思うんだ。出来上がりが遅くなるけど、待てる?」

「もちろん構わないっス」

「ごめんね」

「全然オッケー。気をつけてね」

マヤは「ありがとう」と答えて電話を切った。

次の瞬間のことだった。

オレの中に住む悪魔がこつ然と顔を出した。

自分の中にそんな存在が住み着いていたことを初めて知ったわけだけど。

マヤは隣町のスーパーまで足を伸ばすといっていた。
つまり、すぐには戻ってこないことを意味する。
自転車なら往復5~6分というところだが、徒歩なら20分はかかるだろう。
マヤはダイエットを兼ねて徒歩で出かけた。

さらに食材を物色する時間を入れると早くても30分後の帰宅になると思う。
暗算だけは得意なオレ。
たっぷり時間はある・・・日記を見るための。

まあ、ちらっと眺めるくらいなら罰は当たらないか。
マヤのことを知る権利がオレにはある。
情報の共有は大切だもの。

というわけで、最低なオレは、衝動に負け、自分勝手な理由を並べたて、マヤの日記を見てしまったのだ。

そして、最低最悪な事実を突きつけられてしまうのだった。

さらに、根性なしのオレはあまりのショックでマヤの部屋に居ることができず、彼
女の帰宅を待たずして部屋を飛び出してしまった。

「悪い…やっぱオレ、今日は帰るわ」という一本の電話も一件のメールも残すことなく…。

日記は次のような厳しい現実を突きつけた。
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