出会う前のキミに逢いたくて
きっとその人だ。その人が電話をかけてきたのだ。


わたしは日に日に存在感を増しつつあるおなかを持ち上げ、電話まで近づいた。


心臓が高鳴る。


受話器を浮かせ、耳にあてた。


自然と生唾を飲み込んでいた。


「もしもし」


「もしもし。オレだけど」


相手の声を聞いて拍子抜けした。


妊娠してなかったら大げさに後ろに転んで「もう・・・なんだよ!」と突っ込みを入れてたと思う。


かけてきたのは前田くんだった。


「なになに。なんかマヤちゃん、がっかりしてない?」


「別に」


「ああ。マサキからの電話だと思った? わりぃわりぃ」


「別にそういうんじゃないよ」


「やっぱりなんか怒ってない?」


「怒ってないよ」


「それならいいんだけど」
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