出会う前のキミに逢いたくて
<マヤ>

その店員はわたしを見るなり、明らかに動揺していた。


話しかけた瞬間、
「☆〇♯△」と意味不明な言語を発したほど。


彼はわたしにやたらと大きなテレビをすすめる。


その上、「野球をテレビ観戦するにはもってこいですよ」なんて言ってくる。


まるでわたしの素性を知ってるような口ぶりだ。


「ほ、ほら、これくらいのサイズでしたら選手がアップで映ったとき、よ、よく見えます」


「こんな高いテレビ、買えませんよ」と断ると、
「そんなことないでしょ」と言い返した。


きっとわたしがそこそこの高級ブランドの服を着ているせいだ。


今日はこのあと、監督の奥さんに食事に誘われている。


初勝利のお祝いだった。


たまたま一張羅を着ているだけなのに、セレブ奥さんと勘違いしてるらしい。


「あのう、大きなお世話だったらすみません。体調大丈夫ですか?」


「どうして?」


「だって顔中、汗まみれじゃないですか」


「ああ。それでしたら心配はいりません。生まれつき、汗っかきでして」


「それならいいけど」

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