出会う前のキミに逢いたくて
足音はマヤの部屋の前でぴたりと止まった。

やがてカチャカチャカチャとカギを差し込む音がする。

オレは流し台に皿を置くと、隠しマイクが拾った音を聞くために、慌てて小型スピーカーを立ち上げた。

刑事ドラマで誘拐犯を逆探知する捜査一課のように、ヘッドホンをこれでもかと耳に押し当てる。

「入って」

聞き覚えのある声・・・マヤに間違いない。

稚拙でバカみたいな表現であるが胸がキューーンとなった。

でもマヤの声は少しかすれている。

いつものようなハリがない。

まるで泣いたあとみたいだった。

「遠慮するよ、オレはここで帰るよ」

こちらの声にはまったく聞き覚えがなかった。

野太い男の声だった。

二人は外から一緒に帰宅したらしい。

一瞬、朝帰りかとも思ったけどそうじゃなかった。

マヤが朝早くに出かけてくところを確認してるから。

昨晩はスピーカーを枕元に置き、オンにしたまま眠った。

午前8時ごろだったかなぁ。

マヤが部屋を出ていったのは。

カギを閉めて出かける音を聞いたから間違いない。
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