出会う前のキミに逢いたくて
うーん、考えられる理由はなんだろう。

上体を起こして座り、検証してみることにした。

実はオレ、夢遊病者だった!?

・・・そんなはずないと即座に否定する。

これまで家族に指摘されたことは一度もないもの。

あとは何だ。

何者かによって連れてこられた!?
・・・でも、見たところ体に痣はない。
痛みを感じるような箇所も。
無理矢理誰かに体を抱えられたり、無造作に投げ捨てられたりした形跡は皆無である。

混乱してると、向かいのベンチに中年のサラリーマンが「ヨイショ」と言葉を発して腰掛けた。

どこまで地味なんだよ、と突っ込みたくなるくらいの、どこにでもあるようなグレイのくたびれたスーツに銀縁のメガネ。

そして、薄くなり始めた頭髪。

「人生の悲哀」ってやつを感じさせるのに十分なビジュアルだった。

数十年後、オレもやがてこのおじさんのようになるのかなぁ。

いやいや、オレは絶対になりたくない。

無意識のうちに激しく首を左右に振る。


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