出会う前のキミに逢いたくて
<マヤ>ある年の秋

日曜日

わたしはスーパーの買い物袋を持ってないほうの手でドアノブを慌てて引く。

「ただいまぁ・・・遅くなって本当にごめん・・・ああ?」

なぜか電気が消されていて、人のいる気配がまるでなかった。

どうしたのかな。

ふらっとコンビニにでも行ったのかなぁ。

まさか、突然大声で「ワッ!!」なんていっておどかしたりしないよね。

とりあえず、ドア付近の壁をまさぐって電気のスイッチを探す。

カチッという音とともに、手狭なダイニングにオレンジがかった明かりが灯った。

やっぱり、シンジの姿はなかった。

ブーンという換気扇の回る音がやけに大きく聞こえる。

不気味なほど殺風景。

買ってきた食材をテーブルに置くと、上着のポケットからスマホを取り出した。
かけてみる。

留守番電話サービスセンターに接続します、というおなじみのアナウンス。

そのあと確認したがこちらにも留守電は残されていなかった。

メールはどうかな・・・

開いてみたけどなにも届いてはいなかった。

なにか急用でも思い出したのかな。

でも、即座に否定する。

シンジはそれほど、いや、まったくといっていいほど、忙しい人じゃないもの。

考えを巡らしてはみたものの、彼と結びつく急用のパターンが一つも思い浮かばなかった。
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