出会う前のキミに逢いたくて
だからわたしも同行することを強くは望まなかった。

ゴリ押ししなかった。

それはそれで、正しい選択だったと思う。間違いではないと思う。

「医者が言ってたよ。克服する人だっていっぱいいるってさ」

気丈にも、マサキが白い歯を覗かせる。

なのに、またしても、次の言葉をなかなか用意できない不甲斐ないわたしがいた。

医者のその言葉を彼はどうとらえてるんだろう。

そして、わたしはどうとらえるべきなの?

「治る人だっていっぱいいる」ってことは、裏を返せば、その逆の人もそれなりにいるってことだよね?

むしろ「治らない人」のほうが主流ってこと?

どっち?

わたしはいつだってポジティブに生きてきたから、こういうときこそ「そうなんだ。じゃあきっと大丈夫だね」と肩のひとつも叩きたいところだけど。

なかなかそういうわけにいかなくて。

ごめん。

また涙がこぼれ出そうになった。

もう一度、体中の気力という気力をかき集めて、涙腺にぎゅっとフタをした。

気がつくとCDは最後の曲を演奏し終え、手持無沙汰にしていた。
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