出会う前のキミに逢いたくて
検査結果を聞いた次の日、マサキはチームメイトで、長年バッテリーを組む前田くんにだけ病状を伝えたそうだ。
同席したわけじゃないから2人の間でどんな会話が交わされたのか知る由もない。
2人は高校時代からの親友だった。
そしてもう一人、深い絆で結ばれた仲間がいた。
今や知らない人はいないというくらいの有名人だ。
六大学リーグのスター・中野くん。
マサキが打ち込まれたとき、前田くんはいつもこう慰めてくれたんだって。

「なんていうのかなぁ。
おまえの球には魂がこもってるんだよな。
今は中野のほうが世間で評価されてるけど、
いつかあいつと肩を並べるときが絶対にくるぜ。
もうこりごりというほど二人の球を受けてるオレが言うんだから間違いねえよ。
そのときが、おまえらの本当の勝負だからな。
オレも楽しみにしてる。そのときが来るのをさ」

マサキと前田くんはその後、同じ大学に進み、現在もバッテリーを組んでる。
キャッチャーのことをよく「女房役」っていうよね。
二人にしか分かり合えない領域が存在することをわたしは知っていた。
もう何回も3人で会ってるけど、わたしがどうしても入り込めない世界を2人はもってるもの。
ほんとーーーに悔しいけどね。

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