出会う前のキミに逢いたくて
スマホの画面に菊池恵吾の表示。

オレの唯一の親友である。

でも、夜型のアイツがこんな朝早くに電話をよこすなんて珍しい。

雨か雪でも降るのだろうか。

よっぽど伝えたい笑い話でもあるのかな。

「もしもし」

「もしもし! シンジ起きてたか?」

「声聞きゃわかるだろ。とっくに起きてるよ」

混線してるのか、妙な雑音が耳障りだ。

なぜか公園で目覚めたことを告げようとしたが、その機会を恵吾が奪う。

「おまえ、ニュース見たか?」

「ニュースって?」

「綾乃ちゃんが澤口鉄平のアホンダラと結婚したらしいぜ」

「そんなのとっくに知ってるよ」

「へえー。いつ知ったの?」

「いつって、あの悪夢の知らせからもう1年になるだろう」

「えっ、そんな昔から二人はデキてたの? さっきのワイドショーじゃ、知り合って3ヶ月のスピード入籍って騒いでたけどな」

「・・・なあ恵吾」

「ん?」

「今って西暦何年だ?」

「なんだよ、話題変えんなよ。で、なんで二人が付き合ってるって話、前から知ってるわけ?」

「・・・」

「テレビ業界に知り合いとかいるんだっけ?」

「・・・」

「なあ、何とかいえよ」

「そんな話、どーでもいいよ」

「そんな落ち込むなって」

「だから今、西暦何年だよ!」
つい怒鳴り声をあげてしまった。

恵吾は一瞬静かになったあと、渋々といった口調で答えた。
「○○年に決まってんだろ」

「・・・」
奴が口にした年号は1年前のものだった。

「みんなで寄ってたかってオレをからかってるわけじゃねえよな」

「なんのことだよ。今日のおまえ、なんか変」

「・・・」

マジかよ!?

オレは昨晩から今朝にかけて、とてつもなく長い旅をしてしまったみたいだ。
< 9 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop