出会う前のキミに逢いたくて
今日ここへ来た最大の収穫がこの瞬間かもしれない。

もしかしたら誤診だったんじゃないのかな。

猿も木から落ちる。

弘法も筆の誤り。

いくら日本の医学は世界最高水準とはいえ、間違うことだってあるかもしれないじゃないか。

そう思うと、ちょっとだけ、嬉しい気持ちになった。

練習を見に来て、本当に良かった。

こんなに気分が高まったのは久しぶりだった。

でも、そう思ったのも束の間。

ある瞬間、マサキの顔がぐしゃりとゆがんだ。

胸を押さえながら投球練習場でうずくまったのだ。

「だ、大丈夫か!?」

前田くんがマスクを投げ捨て駆け寄った。

バッティング練習をしていた選手たちも気づき、マサキの方を不安げに見る。

やがて部員みんながエースを囲んだ。

広いグランドの一部にみんなの意識が集中し、緊張が走る。

「大丈夫だって」

はにかんだマサキが手を振る。

でもどこか無理して作った笑顔だった。

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