蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・」
絢乃は書類を抱え直し、運用課の部屋のドアを開けた。
運用課は現在5人で、課の部屋の奥にはサーバールームがある。
サーバールームには社内で使っている小規模システムのサーバーが数台置かれており、春美が日々データのバックアップなどの運用を行っている。
グランツでは、会計・人事・販売などの基幹システムと商品データはグランツ共通のシステムを使うことになっており、それはまとめて外部のデータセンターに委託している。
ちなみに物流システムは日本独自の物流事情があるため、グランツ共通のシステムは使わず、雅人の部署で開発しているシステムを使っている。
絢乃が部屋に戻ると、絢乃の隣の席の男子社員がふっと顔を向けた。
黒髪に黒メガネ、そしていつも真っ黒なスーツに身を包んだ、絢乃の後輩だ。
───黒杉純也。24歳。
背は絢乃と同じくらいで、よく見ると童顔で可愛らしい顔立ちをしているが、性格は名前の通り、『黒すぎ』。
ハードの調達や組み立てなどを担当している彼は、どこか陰鬱な雰囲気でいつも部屋の隅で機械を相手に何やら作業をしている。
「・・・生還おめでとうございます、秋月先輩」
純也は唇を歪めて笑い、絢乃を見た。
・・・どことなく楽しげなその目。