蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・」
慧はベッドの端に座り、天井を見上げた。
絢乃から離れれば・・・
諦めれば、幸せになれるのだとしても・・・
───自分は絢乃の傍で、想いを抱えたまま不幸になった方がいい。
昔から何度自問しても、変わらない答え。
慧は目元を覆い、嘆息した。
家族愛、安心感、心の拠所・・・。
他のどの男も与えることができないものを、自分は絢乃に与えることができる。
今、絢乃にそれらを与えることができるのは、自分だけだ。
そしてそれらを惜しみなく与えることで、慧は自らの心を満たしてきた。
───奪うことができないのなら、ひたすら与え続けるしかない。
たとえ報われることはなくても・・・。
この数年間、二人きりのモラトリアムの中で、それでいいとずっと思ってきた。
・・・けれど、今。
止まっていた時間が、動き出そうとしている。
───モラトリアムの終わりは近い。
絢乃がこれから歩む道・・・
そして、自分が歩むべき道・・・。
未来はまだ、見えない。
慧はひとつ息をつき、そっと目を閉じた。