蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
いつになく早口で言った絢乃を、周りの社員達が不思議そうに見る。
雅人も驚いたように目を見開き、絢乃を見た。
その横で、卓海はなぜかにこやかな笑みを浮かべている。
・・・あまりに胡散臭すぎる、その笑顔。
・・・恐らくこの会議室の中で、絢乃だけが本当の意味を知っているであろう、その笑顔。
絢乃は鬼気迫る形相で言い募った。
「後部座席の足元でも、トランクでも、最悪ボンネットでも構いません。北條さんの車に乗せてください」
「・・・?」
澤井は訝しげな目で絢乃を見る。
第一開発課の課員達も、ぽかんとした顔で絢乃を見つめている。
一昨日、あれだけ雅人と喧嘩していたのに、なぜ? ・・・と言いたげな彼らの表情。
・・・それはそうだろう。
絢乃も昨日までなら、卓海の車にと言ったかもしれない。
しかし、本性を知った今・・・
『鬼軍曹』と『リアル・鬼』なら、まだ鬼軍曹の方が遥かにマシだ。
もう周りにどう思われようが、構わない。
絢乃は縋るように言った。