蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「まあ、怪しいことやってるシーンはあるけど。おれが感情移入しやすいのは、怪人の心理的な部分だよ」
「へー・・・」
「特にラスト、おれだったらどうするだろうって、いろいろ考えちゃうんだよね。・・・ま、とにかく観てみようか?」
慧の言葉に、絢乃はテレビ画面に向き直った。
『オペラ座の怪人』はフランスの作家ガストン・ルルーが1900年頃に発表した小説で、これまでに何度も映画や舞台で上演されている。
・・・らしい。
物語は最初、主人公・クリスティーヌの相手役、ラウル子爵の過去の回想から始まる。
クリスティーヌは若かりし頃、オペラ座の歌姫として舞台に立っており、『夜の音楽の天使』と呼ばれる謎の人物から歌の手ほどきを受けていた。
彼女と恋仲になったラウルはその謎の人物が、オペラ座の地下に住む『怪人』だと突き止め、彼を排除しようとする。
怪人は顔半分が焼け爛れた醜い姿の男だったが、全てにおいて天才的才能を持っており、クリスティーヌに恋した彼はその才能の全てを使って彼女を手に入れようとする。
平たく言うとクリスティーヌをめぐる三角関係を描いた映画だ。
───2時間後。
絢乃はううっと目元を手で押さえ、鼻をすすった。
・・・終盤は怪人とラウルの命を懸けた戦いとなったが、最後はラウルとクリスティーヌが結ばれて、めでたしめでたし、だ。
とりあえず二人が無事で良かったー、とほっとする絢乃の横で、慧がはぁと息をつく。