蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
2.社食での攻防
10階にある社食は、12時を過ぎればすぐに満席になる。
絢乃と春美は入り口で5分ほど待たされた後、ようやく席についた。
席は4人掛けで、窓際の景色の良い席だ。
窓の外には、晴れ渡った青空の下、都内のビル群が広がっている。
ここからだと東京タワーも見えるので、ちょっとお得な気がしなくもない。
「やった、窓際! ラッキー!」
春美は座席キープの札をテーブルに置き、『本日の日替わり定食』のコーナーへと向かった。
絢乃はぐるっと社食を見渡した後、『本日の麺類』コーナーへ向かおうとした。
と、その時。
「お、絢乃ちゃん?」
横から声を掛けられ、絢乃は足を止めた。
そこに立っていたのは、均整のとれた長身の体をグレーストライプのスーツで包んだ男だった。
少し長めの艶やかな黒髪に、大人の色気を漂わせた、茶色がかった二重の瞳。
その完璧な顔のパーツの配置といい、口元に刻まれた優美な微笑みといい・・・
いわゆる、筋金入りの『イケメン』だ。
突然のことに、絢乃は思わずまじまじと彼を見てしまった。