蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
<side.雅人>
17:15。
雅人はセミナー会場の出口で、自分の腕時計をちらりと見た。
・・・そろそろ、来る頃だろうか。
絢乃はたまに時間にルーズな時がある。
今日はこれから直帰なので、多少遅れても構わないといえば構わないのだが・・・。
直帰なら、絢乃をまた送って行ってもいいかもしれない。
どうせ同じ方面だ。
雅人は先日初めて会った、絢乃の兄の顔を思い出した。
兄と言うだけあり、絢乃と多少、面立ちは似ていたが・・・
あれほどまでの容貌の持ち主だとは、想像だにしていなかった。
そして、あの表情、態度・・・。
只者ではない、というのは見た瞬間にわかった。
・・・頭がいい人間独特の雰囲気、とでもいうのだろうか。
雅人は最高学府ではないが、国内でも三本の指に入る工学系の国立大学を出ている。
そこにいた研究者たちと、絢乃の兄は同じ空気を漂わせていた。
あれほどの人間が・・・なぜ、在宅で個人事業主をしているのか。