蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
3.普通の兄妹?
20:00。
二人は食事を終え、店を出た。
中華はどれも美味しく、絢乃は出された料理を次々と食べてしまった。
・・・棒棒鶏以外は。
卓海は和食派だと聞いていたが、どうやら中華もそれなりに好むらしい。
別に卓海の食の好みなど、覚えるつもりは毛頭ないが。
店を出、車に乗り込む時、絢乃は一瞬車の前で立ち止まった。
・・・鬼とはいえ、卓海は上司だ。
普通であれば、部下の絢乃が運転するのが筋なのだが・・・。
などと思っていた絢乃の肩を、卓海は後ろから助手席の方へととんと押した。
「早く乗れよ。・・・何だ、どうかしたのか?」
「いえ、その。本当なら、私が運転しなければならないのに・・・」
「しょうがないだろ。社用車を霊柩車にするわけにはいかねぇからな?」
卓海はくすりと笑い、ぽんと絢乃の頭を叩いた。
・・・大人の男の余裕を漂わせた、その微笑み。
絢乃は思わずその表情にドキッとしてしまった。
失礼なことを言われているとわかってはいるが・・・。