蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
やがて車はゆっくりと表通りの方に向かって発進した。
卓海の運転する車は国道246号を走り、宮崎平へと向かっていく。
首都高と東名高速が混んでいるため、下道で行くことにしたらしい。
───そして、30分後。
車は絢乃のマンションの前に到着した。
どうやら卓海はマンションの場所を知っていたらしい。
絢乃が車から降りると、マンションの入り口から慧が歩み寄ってきた。
洗いざらしのジーンズに、途中までしか留めていないシャツという相変わらずの格好だが、その姿になぜか涙が出そうなほどホッとする。
「・・・ただいま、慧兄」
「おかえり、アヤ」
二人の後ろで、卓海もエンジンを掛けたまま車から降りた。
慧の顔を見、思わず頬を緩めた絢乃の頭に、慧がその白い手を伸ばす。
・・・ふわっと香る、柔らかいウッドノートの香り。
慧はよしよしというように絢乃の頭を撫でた。
「・・・あぁ、アヤ、かわいそうに。地獄の中を引きずり回されて来たんだね?」
「相変わらずのシスコンぶりだな、慧・・・」