蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
卓海はにっこりと笑い、絢乃の隣の席を指差す。
そんな卓海と絢乃の姿に、周りの女子社員達から恨めしそうな視線が向けられる。
いつも卓海はテーブルの順番待ちをせず、こうして女性社員達のテーブルの空いてる席に座っている。
そして卓海がどのテーブルに座るか? は、女性社員達の昼休みの楽しみの一つになっているらしい。
・・・絢乃は別に楽しみにしているわけでも何でもないが。
しかしここで断ると、後で女性社員達の視線が痛い。
絢乃は渋々と言った様子で頷いた。
「・・・空いてますよ。どうぞ」
「よかった。ありがとう」
言い、卓海はその茶色みを帯びた目を細めてにこりと笑った。
その端正な顔に良く似合う、華やかな微笑み。
・・・こう見ると、確かに卓海は格好いい。
絢乃は内心ドキリとしながら、『本日の麺類』コーナーへと歩いていった。
そして5分後。
テーブルに戻った絢乃は、テーブルを覆う不穏な空気に眉を顰めた。
・・・見ると。
絢乃の隣の席に座った卓海を、向かいに座った春美が睨みつけている。