蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・ちょっとあんた。いつそこに座っていいって言った?」
「え、ちゃんと聞いたよ? 絢乃ちゃんに」
けろっとした顔で卓海は言う。
絢乃はさーっと顔から血の気が引いていくのを感じた。
───そうだった。しまった。
春美は昔から卓海を毛嫌いしており、飲み会などでも近づこうとしない。
すっかりそれを忘れていた絢乃は、二人の間に漂う冷たい空気に背筋が凍るような気がした。
「ま、いいじゃない、たまには? ・・・ね、春美ちゃん?」
「『ちゃん』付けで呼ばないで頂戴。仮にも、あたしはあんたより先輩なのよ?」
春美は鮭をつつきながら、剣呑な声で言う。
春美はさっぱりとした気質だが体育会系な部分も持っており、年下になめられることを何よりも嫌う。
恐らく、卓海を嫌っているのはそれが原因なのだろうが・・・。
卓海はそれを気にした様子もなく、いつも通りの完璧な笑顔で口を開いた。
「じゃあ、『姉御』っていうのはどう? ・・・ね、春美の姉御?」
「・・・それならまだ『ちゃん』付けの方がイイわ・・・」