蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
車に戻った絢乃は、ペットボトルを開けながら、運転席に座る慧をちらりと見た。
・・・さっきの、慧の言葉。
『おれの女』って・・・。
聞いた瞬間は驚きのあまり何も考えることができなかったが、こうして二人で車の中にいると、なぜか何度も頭をよぎる。
「・・・ねえ、慧兄・・・」
「ん?」
「さっき、あの人に、その・・・」
絢乃はぽつりと呟くように言った。
慧はしばし絢乃を見つめた後、すぐにハハと笑った。
「あぁ、あれね。だって『おれの妹に何の用だ』じゃ、カッコつかないでしょ?」
「・・・」
「あれは古今東西の決まり文句みたいなものだよ。だから気にするんじゃないよ、アヤ?」