蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
初枝は上機嫌に笑いながら言う。
・・・それは絢乃もそう思わなくもない。
しかし慧は目を伏せ、呟くように言った。
「・・・おれはまだ、そのつもりはないよ。まだ、やることがいっぱいあるしね」
「そうなのかい?・・・じゃあ、絢乃は?」
「へっ?」
突然話を振られ、絢乃は目を見開いた。
初枝の言葉に、隣にいた慧が絢乃にすっと視線を向ける。
・・・その、探るような鋭い瞳。
絢乃はしばしの沈黙の後、慌てて首を振った。
「えっ・・・私もまだ、とても、そんな・・・」
「おや、お前も相手がいないのかい。いい年なのに、なんだか心配になるね?」
「・・・」
初枝の言葉に、絢乃はうっと黙り込んだ。
・・・と言われても、こればかりはどうしようもない。
このままでは良くないと、自分でもわかっている。
しかし、初枝にまで心配されるとは思ってもみなかった。
・・・やはり、そろそろ行動に移すときだろうか。
絢乃は箸で煮物を抓みながら、内心ではぁとため息をついた・・・。