蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
げっそりした声で春美は言い、鮭を口へと運んだ。
卓海はくすくす笑い、優雅な手つきで『本日の和食』の煮物に箸を伸ばす。
卓海は見かけからは想像できないが、食事は断然和食派らしい。
・・・他の部署の女子社員から聞いた話だが。
「そういえば、絢乃ちゃん。アイツは元気?」
───食事の後。
食後のお茶を飲んでいた絢乃に、卓海は問いかけた。
絢乃はずずっとお茶をすすり、ちらりと隣の卓海を見た。
「・・・慧兄ですか? 元気ですよ?」
「あいつ、相変わらず家で仕事してるの? ちゃんと生きてるの?」
「御心配なく。ちゃんと仕事してますよ」
卓海は絢乃の兄・慧の高校時代の同級生で、兄とも面識がある。
なので絢乃も、卓海のことは中学の頃から知っていた。
そして卓海は、絢乃の大学の先輩でもある。
しかし大学に行っていた当時はほとんど話したことはなく、まともに会話するようになったのはこの会社に入ってからだ。