蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
突然慧にぐいと腕を掴まれ、息を飲んだ。
・・・見ると。
慧がひどく真剣な目で、じっと絢乃を見つめている。
・・・その、鋭い瞳。
昨日、サービスエリアで見た表情と似ている、その険しい表情。
「・・・なに、どういうこと、それ?」
絢乃はその瞳の鋭さに、思わず息を飲んだ。
いつも春の陽光のような穏やかさを湛えているその瞳が、今は鋭く絢乃を見据えている。
・・・絢乃の心を見透かそうとするような、その瞳。
絢乃は慌てて言った。
「・・・ずっと、慧兄にばかり負担をかけるのは申し訳ないし。まだいつかは決めてないけど、一人暮らししようかなって思って・・・」
「・・・」
慧はじっと絢乃を見つめていたが、やがて腕から手を離し、その瞳をふっと逸らした。
・・・どこか哀しげな、傷ついたような・・・その横顔。
その横顔を見、絢乃の胸もきゅっと痛む。
絢乃が、今の生活を楽しいと思っているように・・・
慧も今の生活を、楽しいと思っているのかもしれない。
けれどいつまでも、この生活が続けられるわけではない。
絢乃は胸の痛みを感じながら、無理やり笑顔を浮かべて言った。