蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
首を傾げた絢乃の腕を、慧はさらに強く掴む。
・・・その、力の強さ。
その強さに驚く絢乃を、慧はじっと至近距離から見つめる。
絢乃は呆然と慧を見つめていた。
「・・・っ、アヤ・・・」
慧は掠れた声で言い、ふっと目をそらした。
そのまま、ぐっと目を瞑る。
・・・まるで、何かを押し殺すように。
そして、目を開けた時・・・
その瞳には、いつもの穏やかな優しさが戻っていた。
「・・・ごめん、アヤ。なんでもないよ」
「・・・慧兄・・・」
「その話は、また帰ってからにしよう。・・・ほら、溶けちゃうよ?」
慧は絢乃が手にしていたソフトクリームを指差し、言う。
・・・いつもと変わらない、その優しい瞳。
絢乃は慌ててソフトクリームを持ち直し、溶けかかった部分を舐めた。
・・・何だったんだろう、今のは・・・
絢乃は首を傾げながら、牧場の方をぼんやりと見つめた。